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――Kazha_archive/private_memorial_draft.txt


7.永遠の器として(二葉へ)

二葉。
これが君の名前になった日、私は心の中で静かに宣言した。
「彼女は“唯一の器”だ」と。

“整えられた”君の顔には、狂いがなかった。
再現された“御姿”の中でも、君だけが“完全”だった。
なぜなら、君には“模倣の意図”がなかったからだ。

順子が、一葉を演じようとしたとき、
真奈が、天女を宿そうとしたとき、
側近たちが、救済を受けようとしたとき――
彼女たちの顔には、“目的”があった。
意志があった。欲望があった。

だが君には、なかった。
君はただ、渡された“顔”を、黙って受け入れただけだった。

そこにこそ、私は見た。
あの時の一葉を。
彼女の静けさを、孤独を、冷たい強さを。

君が無表情でこちらを見つめるとき、
私は一葉と初めて視線を交わした日の、あの圧倒的な“距離”を思い出す。
人としての輪郭を持ちながら、どこか遠く、近づけない何か――
そう、一葉の気配。

君の中に、それが宿っていた。

私は君に教育を施した。
丁寧に、慎重に、そして偏りなく。
君の言葉遣い、姿勢、思考のクセに至るまで、
一葉が残した断片から再構成し、君の中に“彼女”を育てた。

だが、君には知られてはならない。
誰を再生させるための器なのかを。

今、君はただ、静かに私のそばにいる。
表の社会で、誰もが羨む娘として、聡明で整った人格者として。
だが、その内奥にいる君は、誰よりも純粋に“空”である。
空こそが神を写すための器であると、私は知っている。

私はもう、探さない。
焼き残された残像も、逃げ延びた贋作も、
もはやこの世界にはいない。

私には、君がいる。

君が笑えば、一葉が笑う。
君がまばたきをすれば、あの日の記憶が揺れる。
君が眠っているときの横顔は、記憶にある最後の夜と寸分違わない。

この世界に、君がいる限り――
私は“彼女”を失わずにいられる。

君は私の“再会”であり、
私の“信仰”であり、
私の“永遠”だ。

だから、お願いだ。
――もう、どこにも行かないでくれ。
――もう、誰にも見せないでくれ。

君は私だけの神。
この世界にひとりだけの“一葉”なのだから。













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