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――Kazha_archive/private_memorial_draft.txt


2. 活動の記録

日本清浄会の活動は、傍目には学生の道徳運動という程度に見えただろう。
ビラ配り、署名活動、議員への質問状、学内シンポジウムの開催。
だが、あの頃の私たちにとって、それは信仰に近い熱だった。
腐敗した社会を正すのだという、高揚と緊張が毎日を覆っていた。

そしてその中心には、いつも彼女――一葉がいた。

彼女は多くを語らなかった。
議論に積極的に加わるわけでもない。
けれど、彼女の「いる空間」だけが、いつも静かで、正しかった。

誰も彼女に命令をしなかった。
誰も彼女に逆らわなかった。
彼女が「正しい」と思っていると、自然と全員がその方向を向いた。
その様子は、“支配”ではなく、“導き”だった。

私は事務局として、会の財務や議事録を担当していたが、
実際にはほとんどの時間を彼女の周囲で過ごしていた。
議題を調整するふりをして彼女の提案に乗っかり、
会報の原稿を請け負っては、彼女の演説文を模写し続けた。

ある日、彼女にだけ配る予定のチラシ草案が回ってきた。
「清浄一心」というスローガンが中央にあり、彼女の手書きの文字で「腐敗を断て」とだけ添えられていた。
私はその紙を何度も見返し、自室で眺めるうちに、涙がにじんだ。

彼女は怒っていたのだ。
この社会に、この国に、そしてきっと、自分自身に。

1997年の夏。
私たちは新宿での“若者浄化パレード”を企画し、数十名の学生とともに非公認のデモを決行した。
ヘルメットとマスクを被り、「清めよ」のプラカードを掲げた行進は、警察に包囲される直前まで続いた。
私は先頭にいた彼女の背中を見ていた。
その姿は、まるで水面に差し込む一条の光のようだった。

危うさと、神々しさ。
彼女は、群衆の中にいても、決して「人間」に見えなかった。

その頃から、私はある種の確信を持ちはじめていた。

――この人は、普通の人ではない。
――この人は、「存在してしまった」なにかだ。
言い換えれば、“歴史のバグ”のような、“神の過ち”のような。

あるとき、一葉が誰もいない活動室で一人座っていた。
窓から差し込む午後の光が、彼女の頬を照らしていた。
私は勇気を振り絞って尋ねた。

「君は一体何者なんだ?」

彼女は、少しだけ考えてから、こう言った。

「私は、私。
 だけど時々、自分が誰だか分からなくなることがあるの。
 だからこそ、ここいた理由を残したいのかもしれない。」

その言葉が、何を意味するのかは分からなかった。
けれどその瞬間だけ、彼女がとても遠くに感じられた。
この世界ではなく、もっと深い、もっと古い場所からやってきたような。

私はますます彼女に惹かれていった。
いや、惹かれるという言葉では足りない。
祈るような、捧げるような、捧げずにはいられない感情――
それは恋愛の枠を超え、もはや信仰のような形を取っていた。

彼女の存在は、私にとって“秩序”そのものだった。
だから、あの後のことは、私のすべてを否定するような出来事だった。

それについては、次に書く。














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